プレジャーボートのインテリアデザインについて(第1回)



 
 3 インテリアデザイン

 
はじめに                                  
この論文は長崎総合科学大学 船舶工学科 2008年度の卒業研究に参加した建築学科
の学生(又吉 美里さん)の作成した内容を一部修正したものである。      

3.1 プレジャーボートのインテリアデザインについて              
  プレジャーボートとは旅客、貨物の輸送や、漁業、作業などの業務を行わないレ
ジャー用のボートまたはヨットの総称である。マリン事業は人の生き甲斐や余暇生活
を豊かにする事が目的であり、パーティーやクルージング、釣り、マリンスポーツな
どの遊びを作り出すことが仕事である。本来その遊びとは、楽しむ、娯楽、休養、リ
ラックス、ストレス解消などの目的で生物がする行動の総称であり、生命活動を維持
するのに直接必要な食事・睡眠や、自ら望んで行われない労働などは含まれない。競
争的な遊びのように個人の能力差を完全に認めるか、逆に、偶然や運に基づく遊びの
ように能力差を否定するか、いずれにせよ、実社会にはない絶対的な平等条件がルー
ルとして確立されていることが遊びの特徴である。               
他の高度な知性を持った動物に比べ、人間(ヒト)は特に遊びが多様化、複雑化してお
り、成熟後も遊びを多く行ない、生きていく上ではまったく不要と思われるような行
動も多く見受けられる。遊びは大きな文化として確立しており、また商品の売り手に
とっても市場を左右する要因としても重要である。 プレジャーボートと遊びは、重要
な繋がりを持ち設計の段階でも遊びを重視している。              
プレジャーボートのインテリアデザインは陸上建築物のインテリアデザインとの相違 点を考えてみる。                              (1)レジャー行動に対応した生活空間の構成を一番に重視               遊び(レジャー)をメインとした人間の動線から室内配置を考え、すべての点におい   て遊びの要素を交え空間をデザイン。                   (2)水上の移動、又それを考慮したインテリアデザイン                比較的小さなプレジャーボートは大型客船と比べて移動の際大きく揺れる事があ   り、インテリア設備はしっかりとネジやボルトなどで船体に取り付けられる必要   がある。そのため、簡単に配置を変える事が出来ない。また、船内移動や波の影   響により船が傾く事で起こりうる転倒やけがの危険性がある。その対策としての   安全設備やクッション材が、船内各所に必要となる。             (3)船体形状や構造上、壁面が湾曲し、利用しにくいスペースがうまれやすい使い難   いスペースの有効活用、狭い空間を広く見せるデザイン(狭小デザイン)が重   要。船体形状は曲線の組合わせなので船内の壁やソファも曲線を多用している。 (4)最小限の動作寸法を重視したインテリアデザインが必要              狭く限られた空間利用は必要最低限の動作寸法とするので、 時として苦痛や違和   感を持たせ、不快を招く恐れがある。しかしその非日常的で窮屈さは 逆に、自然   を満喫する特別な空間、またジャングルジムのような遊びの空間を生み出し楽し   むこともできるのである。                          このように、プレジャーボートのインテリアデザインは、余裕のある陸上の建築物  とは異なり、遊びの空間を確保するため必要最小限の生活空間と楽しめる快適さや  安全性の確保が必要となり、狭小空間デザインは極めて重要である。       3.2 感性について  感性とは人間らしさの要素の一つで、文学、音楽、絵画などの芸術の理解を深める 上で大切である。感性は非言語的、無意識的、直感的なものであり、例えば何らかの 音楽に違和感を覚えるように人間に作用することもある。感性についての研究は古く は美学や認識論、また認知心理学や芸術学などで行われてきたものであり、歴史的に は19世紀に心理学者フェヒナーが黄金比についての実験美学研究にその起源を求める こともできる。感性デザインは、自分でさえ気づかない心の働きを、デザインという フィルタをとおしてどう操作できるかを考え、そして具現化(デ ザイン)することであ る。人間の感覚器は、五感と呼ばれるように異なった感覚モダリティ(感覚情報処理の 様式)を持っており、異なった感覚器官が同じような感じ方をするなど複雑な相互作用 によって成り立っているといわれている。 人の感覚器官をとおして入ってきた情報は 感性の働きによって人は何かを感じ、 評価・判断する。 * 1            本稿で述べる狭小デザインの広く見せる工夫点は、ここで述べる感性をふまえた視覚 的なものである。船内は狭小空間のため、広く見せる狭小空間デザインがとても重要 であり、人の視覚的感性を利用し錯覚のような効果(広く見せる工夫)を持たせ、狭小空 間デザインを作り出すのである。このように、船の居住性は人の快適な空間を作り出 すためには、感性はとても重要な要素である。一方、人の感性を悪用して誤った認識 を故意に植えつけることがある。いわゆる『洗脳』というものだ。        
実際に、 100人に対して図Aの女性をそれぞれ比較してもらい、誰がやせて見えるか アンケートを実施した。縦縞の服の女性は69%、横縞の服の女性は3%、無地の服の女 性は28%の結果でやせて見えると回答を得た。実は、縦縞の服の女性より無地の服の 女性の方が実際には痩せて見えるという研究結果が報告されている。 * 2 横縞は横長 に、縦縞は縦長に見せる効果があるので縦縞の方がやせて見える。これは、縦縞か横 縞の2通りの考えであり、分割の錯覚により分割されたものは、分割されないものより 大きく見える。衣服などのボーダー(ストライプ:縞)柄で、太っている人は、縦縞のも のを着た方がスリムに見えると言われているが、実際には分割されてない無地の方が スリムに見える。それなのに、縦縞の女性が半数以上を占めた結果は「縦縞はやせて 見える」という『洗脳』によるものだと考えられる。               そのため感性は大切だが、感情に支配されるだけでなく、つねに多角的視点に立って 思考することが必要だ。                            * 1 ・ ・ ・出典:フリー百科事典『ウイキペディア(Wikipedia) 』          * 2・ ・ ・ 「インテリアデザインの基礎」 楢崎 雄之 著             3. 3  狭小空間デザインについて                        3. 3. 1 広く見せる工夫                            A)色の効果で室内を広く見せる                          ●進出色と後退色                                ある色を同じ距離から見ても、近くに感じる色と、遠くに感じる色がある。人の   目の色収差によって、赤・橙・黄などの暖色系や明度・彩度の高い色は飛び出し   て見える。                                  この色を進出色といい、青・青緑・青紫などの寒色系や明度・彩度の低い色は   引っ込んで見える。この色を後退色という。                
  同じ広さの部屋でも、進出色は飛び出して拡大・膨張して見えるので部屋が狭く   感じ、逆に後退色は引っ込んで収縮・縮小して見えるので部屋が広く感じると報   告されている。 *1                           
  実際に100人を対象に図1. 2についてアンケートをとった結果、79%の人が図1は   飛び出して見え、86%の人が図2は引っ込んで見えると答えた。また、「図3と図   4ではどちらの部屋が広く見えるか。」については91%の人が図4の方が広く見え   ると答えた。8割近くの人が進出色と後退色の効果がある結果を答え、また、9割   の人が後退色の効果で部屋が広く感じるという結果が得られたので本稿の理論は   正しいと言える。                              ●軽い色と重い色                                同じ大きさの2つの四角い箱があり、一方は黒で一方は白だと、実際の重さは同じ   でも、黒の方が重く見える。このように色の重い、軽いという印象は明度の高低   によって決まる。明度の高い明るい色ほど軽く見え、明度の低い暗い色は重く見   える。 一般的に、部屋は天井が高く見えた方が伸び伸びしで択適だ。天井の色を   明るく、床を暗く、壁は天井と床の中間色にすれば、天井が高く広々と見える。   白い天井は見た目に1 0cm高く感じ、黒い天井は1 0cm低く感じると報告されて   いる。 * 1                               
                 結果、壁面のように面積を多く取る所は、後退色または白のように明度の高い軽   い色を用いると部屋が広く見える。この色を多く配色するデザインがシンプルモ   ダンデザインであり、またすっきりとしたデザインでより広く見せる効果がある   と考えられる。                             
                 壁紙の模様 壁に小さな淡い柄をちりばめた部屋と、大きな濃い柄の部屋とでは、   小さい淡い柄を使った部屋の方が広く感じる。人の眼は遠近法の原理に基づい   て、小さく淡いものを遠く、大きく濃いものを近くに感じる。 こちらも実際に   100人を対象に図5. 6についてアンケートをとった結果、97%の人が「図6の小さ   い淡い柄の方が広く見える」と答えた。 また花模様の壁紙でも、その花柄が赤や   燈・黄などの暖色で、明度・彩度が高いほど飽きがくるのが早く、部屋を狭く見   せる傾向がある。同じ花柄でも、花柄が地色に溶け込んでいるパステル調のもの   は、飽きもこないし部屋も広く 見せる効果がある。            
                 C)分割の錯覚                                  分割されたものは、分割されないものより大きく見える。衣服などのボーダー   (ストライプ:縞)柄で、太っている人は、縦縞のものを着た方がスリムに見えると   言われているが、実際では分割されてない無地の方がスリムに見える。 また横縞   は横長に、縦縞は縦長に見せる効果がある。縦縞のコントラストが強い色を広範   囲に使うと、部屋が狭く見える。逆に横縞のコントラストが強い色を使うと、横   の広がりは強調されるが、天井が低く見える。              
                 D)鏡を置き、奥行きを演出                             部屋に鏡を置くと、鏡に部屋が映し出されるため奥行を感じる効果がある。ま   た光が反射し、室内が明るくなり広く見える。              
                 E)エントランスドア・窓を大きくとる。                       エントランスドアや窓など、外の風景が見えるスペースを大きくとる事で開放   感がうまれ室内を広く見せることができる。また、太陽光が室内に射し込み明る   くなり広く見える効果もある。この現象は、室内の明度が高くなり軽い色の効果   と同じ現象だ。                             
                                       3-3. 2 空間の有効活用(54FTモーターヨット模型で検証)               舷外通路のスペースを室内の空間に変え、収納庫や収納ソファのスペースに活   用。他にも、メインサロンからギャレー段差を設けることで下のゲストルームの   天井が高くとれ、階段横のスペースを食器棚や食料庫として活用する。     舷外通路のスペース活用                          
                 メインサロンからギャレーへの段差活用                    
                 ロアーステーション下のスペアルームは、サイドロッカーからはしごで下るが、   それでは危険を感じるのでサイドロッカーを撤去し、ソファ下にはしごを設けス   ペアルームへ座った姿勢から降りるように改善した。             ロアーステーションからスペアルーム                    
                         3.4 インテリアスタイルの例                            プレジャーボートの室内意匠を考える際、どのような室内イメージにするかを決  める必要がある。そこで室内イメージを数種類のインテリアスタイルとして検討す  るが、仕分けのベースとしては、ボートユーザーの個性や好み、ライフスタイルに  大きく関わってくる。様々な 家具やアイテムを、統一性のあるインテリアデザイン  として考え、ある程度の統一感をもったインテリアデザインとすると、より一層オ  シャレ度が高まる。                               またインテリアスタイルは国や文化、歴史、地域性によって異なり、数種に分類  できる。                                   本稿では、一般的なインテリアスタイルについてそれぞれのデザインの特徴と雰囲  気などを解説し、モデルボートとして基本設計を行ったアルファクラフトAL54のイ  ンテリアスタイルの検討結果に応用した。                   インテリアスタイルの概観                            (1)ナチュラルスタイル                            (2)カントリースタイル                            (3)シンプルスタイル                             (4)クラシックスタイル                            (5)和風スタイル                                 (6)アジアンスタイル                             (7)モダンスタイル                               以下各スタイルの特徴について述べる。                   3.4.1 ナチュラルスタイル 〜自然素材でぬくもり感のあるインテリア〜       ■ トータルイメージ                                ナチュラルスタイルは、木の素材感を生かした家具をメインに、自然素材を使った  小物や自然界にある色をふんだんに使ったファブリックなどでまとめたスタイルが  主流だ。                                   重厚な木材が使われた伝統的なカントリースタイルが時を経て、装飾が取り除かれ  シンプルになり、現代的によりライト感覚にまとまったスタイルが現代のナチュラ  ルスタイルだ。現在、自然からの癒しを与えてもらえる素材に囲まれたライフスタ  イルが好まれ、最も人気の高いインテリアスタイルである。             ナチュラルスタイルの中でも、北欧スタイルはヨーロピアンの雰囲気を持つ シン  プルなスタイルで、ムクや曲木、成形合板などの木と、布、イグサなどの自然素材  を使った、シンプルで実用的なデザインが特徴である。特にデンマークの家具は  「デンマークスタイル」として確立している。                   またスペイン文化とインディアン文化が融合したスタイルとして、サンタフェスタ  イルがある。テラコッタやコットンなどの素材をふんだんに使った温かみのある雰  囲気が特徴で、スペイン風の木製の家具にインディゴや草木染めのコットンなどを  組み合わせて、ナチュラルでくつろいだ雰囲気を出している。        
                 ■ 家具                                     家具は、飾りの多い家具や個性的なフォルムの家具は避け、明るい色調のパイン材  やオーク材、メープル材などで作られた、直線的でスッキリとしたフォルムの家具  が良い。                                 
                 ■ ウインドウトリートメント・ファブリック                    窓周りのカーテンの生地やソファの張りなどはコットン、麻などの天然素材を用  い、ボリュームのある質感の布地は避けた方が良い。              ファブリックも色の派手なものや柄物は調和を考えてなるべく控え、自然な調和で  まとめると良い。                               シンプルなストライプやチェックは程よいアクセントになり合わせやすい。   
                 ■ 照明                                     照明は、シンプルな木製フロアスタンドやライトコントロール付のダウンラ イトで  柔らかな光を演出すると、ナチュラルスタイルの空間がより引き立つ。     
                
  
 
(プレジャーボートのインテリアデザイン 第1回 終り)